現代社会は、私たちの想像を超えるスピードで変化し続けていますね。特に最近では、所得、教育、金融資産など、あらゆる面で格差が広がり、「K字型経済」と呼ばれる現象が先進国で進んでいると言われています。これは、まるでアルファベットのKの右半分のように、富裕層と貧困層の二極化が深まっていく状態を指します。
IT企業の創業者であり、多岐にわたる事業を手掛ける佐藤航陽さんの著書「ゆるストイック ノイズに邪魔されず一日を積み上げる思考」は、まさにこの二極化が進む時代を生き抜くための方法を教えてくれる一冊です。
才能や資産を持つ人に勝てない、保険料や税金が高いからコツコツ頑張るのが馬鹿らしくなる…そんな風に感じている人も少なくないかもしれません。しかし、立ち止まってしまうと、このK字型経済の下側に転落してしまうリスクもあります。
今回は、佐藤航陽さんのこの本から、激変する時代を上手に乗りこなすための知恵を、皆さんと一緒に深掘りしていきたいと思います!
時代の波を乗りこなす「ゆるストイック」という生き方とは?
本書の核となるのが、著者佐藤航陽さんが提唱する造語「ゆるストイック」という生き方です。
これは簡単に言うと、「自分の目標には徹底的にストイックでありながら、他人の考え方や姿勢には寛容でいるスタイル」のこと。例えば、勉強や筋トレ、副業など、自分のやるべきことには真剣に取り組む一方で、それをわざわざ周りにアピールしたり、「もっと頑張るべきだ」と価値観を押し付けたり、マウントを取ったりしない姿勢を指します。
つまり、「自分は自分、他人は他人」と割り切って、ひたすら自分のやるべきことに集中する人のことだと言えるでしょう。大谷翔平さん、藤井聡太さんといった現代の成功者たちに共通するのは、まさにこの「ゆるストイック」な姿勢だとしています。彼らは周りのノイズに流されることなく、淡々と自分のペースで歩み続けているのです。
通常、結果を出すと周りに厳しくなったり、調子に乗ったりしがちですが、そうした「トゲトゲしさ」がないのが、この「ゆるストイック」の大きな特徴であり、現代で成果を上げる上で非常に重要なポイントだと言えます。特にSNSが当たり前になり、ちょっとした発言が誤解を生みやすい現代においては、この姿勢を貫くことで「余計な対立や敵を増やさずに済む」という大きなメリットもありますね。
「ゆるストイック」を実践するための3つの心構え
では、「ゆるストイック」な生き方を実践するために、どのような心構えが必要なのでしょうか?本書では、特に以下の3つのポイントが挙げられています。
1. コントロールできないことに焦点を当てない
これは、ストイックという言葉の語源である「ストア哲学」の代表的な考え方です。物事を「自分がコントロールできるもの」と「できないもの」の2つに分け、コントロールできることだけに集中し、できないことに悩まないという教えです。
コントロールできないことの例としては、他人の行動や評価、景気、自分の身長、天気、病気、老化、死などが挙げられます。これらに悩んでしまうと、気持ちが不安定になり、行動力が低下してしまいます。メンタルが不安定になりやすい人ほど、自分でどうしようもないことに執着し、深みにはまる傾向があるとのこと、耳が痛いですね。
一方で、自分でコントロールできるものは「自分の考え、判断、行動」です。例えば、「今日1時間ジムに行くかどうか」や「ミスをいい学びと捉えるかどうか」は、すべて自分で決められます。ここに意識を集中することで、無駄なストレスが減り、気持ちが穏やかになります。雨が降るなら傘を差すように、常に自分のやれること、できることに意識を向けるべきだと著者は説きます。
まずは、物事をコントロールできる・できないの2つに分ける習慣をつけることから始めると良いでしょう。
2. リスクがゼロだとリターンもゼロだと考えて行動する
資本主義社会では、基本的にリスクとリターンは釣り合っています。銀行預金のようにリスクがほぼゼロであれば、リターン(利息)もほとんどありません。一方で、株や不動産投資のようにリスクがあれば、その分得られるリターンも大きくなるのです。
問題なのは、「ゼロリスク思考」に陥り、リスクが全くないと判断できるまで動かない人があまりに多いことです。人間は得することよりも損することの方が心理的に大きく感じる傾向があるため、これは自然な心理ではあります。
しかし、AIや新しいプラットフォーム、稼ぎ方が次々と生まれている現代において、リスクが完全になくなるのを待ち続けていると、大きなチャンスを逃してしまいます。もちろん、数億円の借金を抱えるような大きな挑戦をしろと言っているのではありません。本書では、「自分の取れる範囲で、ジャブのように積極的にリスクを取って行動した方がいい」とアドバイスしています。何もしないのは、あまりにもったいない時代なのです。
3. 100発100中を目指さず、失敗に慣れる
何か新しいことに挑戦する時、「絶対に成功しなきゃいけない」「失敗したら終わりだ」と考えてしまうと、失敗が怖くなり、行動そのものができなくなってしまいます。そして、行動できないと経験が足りず、自分の成長も止まってしまいます。
自転車に初めて乗った時を思い出してみてください。最初は転んでばかりだったはずです。しかし、転んで怪我をするたびにバランスの取り方を学び、最終的に上手に乗れるようになりましたよね。
このように、成果を出したいのであれば、「失敗してもいい、失敗して当然」と考えて、カジュアルに行動や挑戦をすることが大切です。まるでゲームのように、何度も失敗しながらうまくなっていくものなのです。
さらに、もう一つ重要なのは、「他人の失敗や挑戦に対して批判したり、辛辣なコメントをしない」こと。誰かを叩いてしまうと、自分が失敗した時に批判されるのが怖くなり、結果的に自分の挑戦にも臆病になってしまいます。自分の挑戦に寛容であるためには、他人の挑戦にも寛容であるべきなのですね。仕事も、やってみないと分からないことが多いのですから、気負わずに挑戦する姿勢が成功への鍵となります。
成果を出しやすい「筋の良い努力」をする3つのポイント
闇雲に行動や努力をしても、なかなか結果が出ないこともあります。そこで本書では、「筋の良い努力」をするためのポイントを3つ提示しています。
1. 好きなこと、得意なこと、需要があることの3つが重なる分野で勝負する
成果が出やすいのは、この3つの要素が重なる分野での挑戦です。
- 好きなこと: 好きなことなら長く続けられ、継続は成果を出す上で不可欠だからです。自分の好きなことが分からない場合は、無意識にYouTubeで見てしまう動画や、よく検索していることを振り返るとヒントが見つかるかもしれません。
- 得意なこと: 周りと比べて得意なことで戦う方が、少ない努力で成果を出しやすいため有利です。自分にとっては当たり前にやっていることでも、他人から褒められることの中に「得意なこと」が隠れていることがあります。
- 需要があること: どんなに好きで得意でも、需要がなければ食い扶持がないため、これも考慮が必要です。
これら3つが重なる部分で勝負することで、同じ努力でも成果が出やすくなる、これが「筋の良い努力」です。
そして、この3つの要素で特に重要なのが、見つける「順番」です。一番最初に掴むべきは「好きなこと」と「得意なこと」の2つが重なっている領域を見つけること。なぜなら、これらは生涯変わらないことが多いからです。
「需要」は時代によって変わりやすいもの(流行りのパンやタピオカのように、数年後には見向きもされなくなることも珍しくありません)。好きでも得意でもないのに需要があるからと飛びついても、うまくいかなければ人生は悲惨ですし、たとえ成功したとしても虚無感に苛まれてしまうことがあります。だからこそ、まずは「好き」と「得意」をしっかり抑え、その後に需要のある領域を探すのがベストなのです。
2. ニッチな場所で戦う
「ニッチ」とは「隙間」という意味です。ビジネスにおいてニッチな場所を狙うとは、強者や大手と真正面から競争しなくても済むような、小さい市場を狙うことを指します。
初めから大きな市場で勝負しようとしても、そこにはすでに多くの有能なライバルがいるため、埋もれてしまうことがほとんどです。例えば、今からラーメン屋さんを始めてもヒットしにくいでしょうし、今さら周りと同じようにゲーム実況を始めても視聴者を獲得するのは非常に難しいでしょう。大きな市場は儲かるからこそライバルが殺到し、入れ替わりも激しいのです。
大谷翔平さんや藤井聡太さんのような「天才の中の天才」であればメジャーな市場で勝負すればいいかもしれませんが、私たち99.9%の人はそうではありません。だからこそ、そういったメジャーなところはあえて避け、ニッチな場所で自分のビジネスを展開していくことが、この時代を生き抜いていく上で非常に重要になります。
具体的なニッチな例としては、「モンハンに出てくる食べ物を全てリアルに再現する料理系チャンネル」や「世界の珍しい法律を解説するチャンネル」などが挙げられます。自分の「好き」と「得意」、そして「需要」を軸にやるべきことを見つけたら、さらに一工夫加えて専門性を高めたり、分かってくれる人にだけ分かってもらえればいい、といった感覚で差別化を図り、自分だけのニッチな市場を見つけていくのです。
狭い市場でも、ネットで発信すれば、食っていけるだけのファンを作ることは十分に可能です。
3. 最新のネットツールを使いこなす
私たちは今、多くのプラットフォームやサービス、ソフトウェアをほぼ無料で使える時代に生きています。YouTube、Spotify、Twitch、X(旧Twitter)、Instagram、Note、Podcast、Amazon、メルカリ、AIなど、枚挙にいとまがありません。
成果を出すためには、こういったすでに存在している基盤に「乗っかる」ことが非常に重要です。ゼロから新しいサービスやプラットフォームを作ろうとすると、時間、労力、コストがかかりすぎてしまいます。YouTubeがない昭和の時代であればただのフリーターだったかもしれない人が、現代では人気YouTuberとして活躍しているように、時代の恩恵を上手く活かせるかどうかで人生は大きく変わるのです。
貯金も人脈もない、容姿も才能もない、そんな人でも一発逆転が可能な時代が今です。先述した「好き・得意・需要の重なるニッチな分野」で、これらの最新ツールを駆使してコツコツとファンを作っていくことができれば、比較的成果を上げやすくなるでしょう。
最後に:もし何の制約もなかったら、あなたは何をしますか?
本の最後に、読者に問いかけられる重要な質問があります。それは、
「もし何の制約もなかったとしたら、自分は何をするだろうか?」
人間は、才能、お金、時間などの条件や環境を言い訳にして、なかなか一歩を踏み出さないことが本当に多いものです。だからこそ、そういった諸々の制約を一旦外して、自分が本当にしたいことを考えてみるのです。
制約を外して考えるのは、意外と難しいかもしれません。私たちは普段から、自分の環境や能力、持っているお金の範囲内で物事を考えることに慣れすぎているからです。しかし、この質問を何度も自分に問いかけ続けることで、ふわっと「これがやりたいかも」と思えることが浮かんでくる瞬間が来るはずです。
この本では、この質問に対する自分の口から出る答えを「すぐに実行していく」だけで、日々は充実していきます、と書かれています。体が自由に動かなくなる前に、ぜひ試してみてほしいと強く思います。
まとめ
佐藤航陽さんの「ゆるストイック ノイズに邪魔されず一日を積み上げる思考」は、二極化が進む厳しい現代を生き抜くための、非常に実践的なヒントを与えてくれます。
その中心にあるのが、自分の目標には徹底的にストイックでありながら、他人の考え方や姿勢には寛容でいる「ゆるストイック」という生き方です。このスタイルを貫くことで、無駄な対立や論争を避け、余計なエネルギーを消耗することなく自分の目標に集中できるのです。
そして、この「ゆるストイック」な生き方を実践する上での3つの心構えが示されました。
- 自分がコントロールできないことに執着しない
- リスクがゼロだとリターンもゼロだと考えて行動する
- 100発100中を目指さず、失敗に慣れる
さらに、闇雲な努力ではなく「筋の良い努力」をするための3つのポイントも紹介されています。
- 好きなこと、得意なこと、需要があることの3つが重なる分野で勝負する
- ニッチな場所で戦う
- 最新のネットツールを使いこなす
最後に、自分自身の本当の望みを知るために、「もし何の制約もなかったら何をするか」を考え、それを実行することの重要性が説かれています。
感想
この「ゆるストイック」という考え方は、現代社会を生きる私たちにとって、非常に実践的で心強い指針だと感じました。特に印象的だったのは、「自分は自分、他人は他人」と割り切ることで、不必要なストレスや対立を避け、本当に大切な「自分の目標」に集中できるという点です。SNSが普及し、他者との比較や批判が日常的に発生する中で、この「ノイズに邪魔されない」という考え方は、心の平穏を保つ上で非常に有効だと感じます。
また、ストア哲学に根ざした「コントロールできることに集中する」という教えは、まさに普遍の真理であり、日々の悩みの多くが、実はコントロールできないことへの執着から来ていることに改めて気づかされました。これを意識するだけでも、精神的な負担はかなり軽減されるはずです。
さらに、「リスクゼロだとリターンもゼロ」という話は、行動への後押しになります。完璧な条件を待っていては、せっかくのチャンスを逃してしまう。ジャブのように小さなリスクからでも挑戦を始めることの重要性は、変化の激しい現代において不可欠な視点だと深く納得しました。失敗を恐れず、むしろ「失敗に慣れる」という考え方も、心理的なハードルを下げ、前向きな行動を促してくれます。
そして、「筋の良い努力」の3つのポイント、特に「好き・得意・需要」の順番の話は、目から鱗でした。つい「需要」から考えてしまいがちですが、本質的に自分が楽しめること、得意なことを軸にすることが、継続と虚無感の回避につながるというのは、非常に理にかなっています。ニッチ戦略や最新ツールの活用といった具体的なアプローチも、現代のデジタル環境を最大限に活かすための現実的なアドバイスだと感じました。
最後の「もし何の制約もなかったら何をするか?」という問いは、自分自身の本当の欲求を見つけるためのパワフルな思考ツールです。日々の忙しさの中で忘れがちな「本当にやりたいこと」を再認識し、それに向かって一歩踏み出す勇気を与えてくれる、非常に示唆に富んだ一冊だと感じました。この本から得られる教訓は、単なるビジネススキルに留まらず、より豊かで充実した人生を送るための哲学として、多くの人に役立つのではないでしょうか。私もこれを機に、もう一度自分の「好き」と「得意」を見つめ直してみようと思います。