今回は、コロンビア大学の教授で、幸福に関する研究の第一人者であるエリザベス・ダンさんの著書、「幸せについて知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室」について深掘りしていきます。
この本は、一言で言えば「今よりも幸せになる方法」を教えてくれるもの。実際に2022年の世界幸福度ランキングを見ると、日本は54位、アメリカは16位、韓国は59位と、経済的に豊かな国でも必ずしも幸せを感じられているわけではないようです。つまり、「お金があれば幸せ」というような単純な話ではないんですね。では、どうすれば私たちは幸福感を感じられるようになるのでしょうか?NHKでも話題になったという、そのプロセスを見ていきましょう。
宝くじが当たっても幸せにはなれない?幸福は「出来事」で決まらない
「宝くじが当たったら、人生バラ色!」「事故に遭ったら、もう終わりだ…」そう思う人は多いでしょう。しかし、驚くべきことに、宝くじに当たるような幸運や、交通事故に遭うような不運に見舞われても、私たちの幸福度は長期的には変わらないことが研究で分かっているんです。
1970年のブリックマン博士の実験では、宝くじ当選者も外れた人も、時間が経てば結局幸福度はあまり変わらないことが判明しています。もちろん、当たった瞬間はものすごく幸せですが、その幸福感は1〜2年後には宝くじが当たる前と同じレベルに戻ってしまうとか。
これは不運にも当てはまります。不慮の事故で体が不自由になった人たちも、事故直後は絶望しても、約2年後にはその状況に慣れ、事故前と同じような幸福度に戻っていくそうです。
結婚も同じで、結婚直後は幸せでも平均2年ほどで結婚前と同じ幸福度になると言います。つまり、「幸福とは自分の身に起こった出来事で決まるわけではない」ということが、この本にははっきりと書かれているんですね。どんな幸運や不運に見舞われても、1〜2年後にはすっかり慣れて、普段通りの幸福度で生きている、というのが現実なのです。
幸せは毎日「0」から始まる!小さな幸せを積み重ねよう
では、私たちはどうすれば長く幸せを感じ続けられるのでしょうか?それは、「毎日小さな幸せを積み重ねていくこと」が大切だとされています。
想像してみてください、幸せを入れる「バケツ」を。美味しい食事をした、友達と話した、親切にされたなど、毎日小さな幸せをバケツに貯めていくことで、私たちは幸せを感じられるのです。
ただし、ここに一つの問題があります。それは、お腹が空くように、このバケツの中身が毎日リセットされてしまうということ。昨日は最高に幸せだったのに、今日はどん底…なんて経験、ありませんか?バケツは次の日には空っぽになっているイメージなので、毎日ゼロから幸せを積み上げていかなければならないんです。幸せはため込んでおくことができないからこそ、毎日コツコツと小さな幸せを積み重ねていくことが、私たちが幸せを感じるのに必要不可欠なんですね。
幸せになるための3つの条件
では、その「小さな幸せ」とは具体的に何なのでしょう?この本では、幸せになるための3つの条件が挙げられています。
1. 人との関わりを増やす
幸せになる材料の1つ目は、「人との関わり」です。毎日少しだけでも人と触れ合うことで、幸福度が上がるんです。例えば、毎朝コンビニの店員さんと軽く挨拶をしたり、散歩中に顔見知りの人と挨拶する、友達とゲームで少し集まる、といった些細なコミュニケーションでも十分です。
実際に、特に幸せを感じている人の上位10%は、みんな友人や他人、そして家族と良好な関係を築いているそうです。宝くじに当たるよりも、毎日人と軽くコミュニケーションしている人の方が、ずっと幸せを感じやすいと言います。
「でも、僕は人見知りだから…」と心配なあなたも大丈夫。内向的な人も外交的な人と同じように、人と交わることで幸せを感じられることが分かっています。大切なのは、普段の生活の中でほんの少しでも良いから、毎日人と関わる機会を持っておくことなんですね。
2. 他人に親切にする
幸せになる条件の2つ目は、「親切」です。毎日人に親切にするだけで、幸せになれるというのですから、驚きですよね。例えば、ボランティアをする、会った人に挨拶をする、感謝の気持ちを伝える、困っている人を助ける、道を譲る、席を譲る、などです。
実際に、アメリカの心理学者ソニア・リュボミアスキー博士は、学生たちに週に1日だけ5つの親切を実行させたところ、学生たちの幸福度が上がったという研究結果があります。ただし、1日1つだけの少ない親切ではあまり幸福度は変わらなかったとのこと。感謝すべきことにはしっかりと感謝する習慣を身につけるだけでも、幸福度は間違いなく増すでしょう。
3. 今この瞬間に集中する
そして3つ目の条件は、「目の前のことに集中すること」です。人はゲームであれ、スポーツであれ、読書であれ、創作活動であれ、食事であれ、今やっている物事に没頭すると幸せを感じるものです。時間を忘れるほど何かにのめり込んだ経験は誰にでもあるはず。没頭している時はとても心地よく、その集中が妨げられると不快に感じるでしょう。
しかし、最近ではスマートフォンによって、私たちは目の前のことに集中することがとても難しくなってしまいました。食事中や友人との会話中、勉強中にスマホをいじってしまうと、残念ながら今この瞬間に集中する幸せは手に入りません。この本では、幸せへの近道はスマホの使用をやめることだとまで書かれているほどです。もしそれが無理なら、せめて通知設定をオフにして、機能を必要最低限にするだけでも良いでしょう。
幸せになるための「お金の使い方」
お金は直接幸福をもたらさないと言いましたが、使い方によっては幸福度を高めることができます。
1. モノではなく「経験」にお金を使う
結論から言うと、パソコンやバッグなどの「モノ」を買うよりも、旅行やご馳走を食べるといった「経験」に使った方が幸せを感じやすい、とされています。なぜなら、経験は後悔することが極めて少ないから。
モノは他のものと比較できるため、「新作が出た」「思っていたのと違った」など、買った後に後悔する可能性が高いです。しかし、経験は比較できません。自分がバリ島で楽しんだことは、他の人のハワイ旅行と比べようがないですよね。
もちろん、旅行中にハプニングが起きたり、食事がまずかったりすることもあるでしょう。しかし、どれだけ悲惨な出来事も、後には「話のいいネタ」になり、10年後にはいい思い出になるものです。人は買ったものについて話すよりも、経験したことを話す方を好むという結果も出ているくらいですから、経験こそが幸福につながるお金の使い方と言えるでしょう。
2. 自分のためではなく「他人のため」にお金を使う
もう一つ、幸せになるお金の使い方は、「自分のためではなく他人のためにお金を使うこと」です。
私たちは子供の頃、親から与えられるものに幸せを感じます。そして成長すると、一人で買い物したり、働いたりする「自分でできる幸せ」を感じ始めます。そして最終的に、人は「人にしてあげる幸せ」に行き着くと言います。
自分の子供にプレゼントを贈る、孫にお年玉をあげる、大切な人にご馳走する、仕事で人を喜ばせる、これらは全て「してあげる幸せ」の例です。お金持ちが最終的に財産を寄付するのも同じで、これによって自分の豊かさを実感できるのです。人は成長するにつれて、誰かにしてもらうことよりも、誰かにしてあげる幸せに大きな満足感を得るようになるので、ぜひ試してみてほしいですね。
3. たまに「ご褒美」にお金を使う
最後にもう一つ、お金を使って幸せを感じる方法があります。それは、「たまに自分にご褒美を与える」という方法です。ポイントは「たまに」です。
人は毎日贅沢をしていると、それを当たり前と感じて慣れてしまい、最後には感謝しなくなってしまうという研究結果があるからです。高級車に乗ろうが軽自動車に乗ろうが、毎日乗っていれば幸福度は変わらないという調査結果もあるほど。高級マンションに住んだり、美味しいものを毎日食べたとしても、嬉しいのは最初だけで、だんだんと慣れて魅力を感じなくなってしまうのです。
つまり、毎日の贅沢が人間の幸福度を下げてしまう可能性があるんですね。幸福度を高めたければ、たまに贅沢をするくらいに留めておくのが良いでしょう。
仕事と幸福度の関係
私たちは起きている時間のほとんどを仕事に使っています。だからこそ、仕事が有意義だと感じられれば、幸せを感じやすいのは当然ですよね。
1. 誰かの役に立っている実感のある仕事をする
幸せになれる仕事の条件は、「人の役に立っていると感じられること」です。弁護士でもコンビニのアルバイトでもYouTuberでも何でも構いません。仕事をしながら、「ああ、俺は人の役に立っているな」と感じられれば良いのです。
もし、自分の仕事が誰の役にも立っていないと感じているなら、それは危険信号かもしれません。人が病むのは、自分が「役に立っていない」「お荷物だ」という感覚を持った時なのだそうです。
厳密に言えば、給料をもらえているのなら、必ず誰かの役に立っているはずです。大切なのは、自分がやっていることが誰かの役に立っていることを実感すること。この本には、レンガ職人の例が挙げられています。「ただレンガを積んでいる」と思っているのか、「大聖堂を作っている」と思っているのか、あるいは「この大聖堂を作ることで人々を幸せにする」と思っているのか。この考え方の違いによって、仕事のやりがいも変わってくるという話です。
2. 働きすぎないこと
「人の役に立っている実感のある仕事」が大切だとは言いましたが、それは決して「とにかく仕事を優先しろ」という意味ではありません。
自分が役に立っているという実感を得られる仕事をしつつも、働きすぎずに休みを取り、積極的に趣味を楽しんだり、大切な人とデートしたりして人生を楽しむことが重要です。なぜなら、幸せは仕事だけでなく、新しい経験をすることや人との関わり、自分にご褒美を与えることでも感じられるからです。
実際に、オーストラリアの看護師ブロニー・ウェアさんが、人生の終わりにいる老人たちに「人生で一番後悔していること」を聞いたところ、よく言われたのが「あんなに働かなければ良かった」ということだったそうです。仕事で得られる幸せは大きいですが、働きすぎると仕事以外で得られる幸せを逃してしまうことになります。だからこそ、幸せになりたければ、働きすぎないことが大切なのです。
まとめ
今回ご紹介したエリザベス・ダンさんの「幸せ について知っておきたい5つのこと NHK「幸福学」白熱教室」の内容をまとめると、以下のようになります。
- 宝くじが当たっても事故に遭っても、あなたの幸福度は変わらない。
- 幸せは毎日ゼロから積み重ねていくもの。
- 幸せには作り方があり、その条件は「人との関わり」「親切と感謝」「今この瞬間に集中すること」の3つ。
- スマホは幸せの邪魔になる可能性があるので注意が必要。
- お金の使い方も重要で、「経験」に使い、「他人のため」に使い、「たまにご褒美」に使うと良い。
- 幸せになりたければ「誰かの役に立っている実感のある仕事」をすること。
- 仕事以外の幸せを得るために、「働きすぎないこと」も大切。
共通しているのは、人は他人との関わりの中でしか幸せになれない、ということだと感じます。自分一人でゲームをしていても、誰かと共有する喜びには敵わない、ということなのかもしれません。
感想
この本を読んで、「幸せとは、いかに日常を丁寧に生きるかにかかっているんだな」と強く感じました。宝くじが当たっても幸せは続かない、という話は衝撃的でしたが、これはつまり、特別な出来事を待つのではなく、今この瞬間にある小さな幸せをどれだけ見つけ、育んでいけるかが重要だということですよね。
特に印象的だったのは「幸せは毎日ゼロから積み重ねていくもの」という考え方です。まるで日々の食事のように、意識的に幸せを「摂取」し続ける必要があるのだと分かりました。人との些細なコミュニケーション、誰かへの小さな親切、そして目の前の作業に没頭する時間。これら全てが、日々の幸福バケツを満たすための大切な要素なのだと気づかされました。
また、お金の使い方が幸福度に直結するという話も目から鱗でした。モノを所有する喜びよりも、経験をすること、そして何より他人に与えることの方が、はるかに大きな満足感を得られるというのは、現代社会に生きる私たちにとって、非常に重要なメッセージだと思います。
仕事に関しても、「誰かの役に立っている実感」という視点は新鮮でした。単に給料をもらうためだけでなく、自分の仕事が社会や誰かの喜びにつながっていると感じられるかどうか。これは、日々のモチベーションや充実感に大きく影響するでしょう。そして、最後に「働きすぎないこと」というアドバイスがあったのは、現代人の私たちにとって、何よりも心に響くものでした。仕事も大切ですが、人生の様々な側面から幸せを得るバランス感覚こそが、真の幸福への鍵だと教えてくれます。
この本で語られている「幸せの秘訣」は、どれもすぐに実践できるものばかりです。私も、まずは今日から、より意識的に日々の小さな幸せを積み重ね、人間関係を大切にし、スマホとの付き合い方を見直してみようと思います。きっと、今よりもっと充実した毎日を送れるはずです。